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大きく開いた口に銃弾を叩き込まれた〈ロストメア〉は、ぎゃあっと叫んで後ずさる。
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ルリアゲハ
またでたらめな奴が出たものね!
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追いついてきたルリアゲハが、リフィルの隣に並んだ。白い手に拳銃を携え、ぴしりと〈ロストメア〉に狙いを定めている。
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リフィル
見えた。
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礼を言うでもなく、ぽつりとリフィル。
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ルリアゲハ
何が見えたの!?
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さらに銃弾を放ちながら、ルリアゲハ。
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リフィル
〝逃げたい。もう誰にも縛られたくない。永遠に自由の身となって生きていきたい〟。そういう〈夢〉。
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ルリアゲハ
奴隷か何かの見そうな〈夢〉ね! で、それが!?
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リフィル
どんな束縛も奴には効かない。
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リフィルは糸を操りながら背後を振り向いた。
銃火の嵐に足止めされていたはずの怪物が、目の前で ぎょっと立ちすくむ。 -
リフィル
(侮辱だ。同じ手に引っかかる馬鹿と思われたとは!)
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間合いは、たった一呼吸分。そんなところだろうと思っていたので、すでに最適な術を選択、詠唱していた。
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リフィル
八十葉をなして、天霧らせ――地より逆撃つ雷霆樹!
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怪物の足元に魔法陣が出現し、そこから真上に稲妻の束が走った。逆巻く雷霆――一瞬にして稲光る大樹が屹立し、轟音とともに怪物の全身を喰らい尽くす。
もがき、暴れながら、怪物が地面に倒れた。 -
リフィル
逃がすな、ルリアゲハッ!
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ルリアゲハ
そうしたいのはやまやまだけど!
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続く銃弾が怪物の腕に殺到し、一本を引きちぎった。攻撃が功を奏している――と見えながら、ルリアゲハの表情は硬い。
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ルリアゲハ
腕で受けてる ! -
腕一本を犠牲にして致命傷を逃れた怪物が、再び姿を消す。リフィルとルリアゲハは、即座に互いの背中を合わせて全方位を警戒した。風のそよぎ、影の揺らぎさえも見逃すまいと、感覚を極限まで研ぎ澄ませる。
少しして――リフィルは、憮然と構えを解いた。 -
リフィル
反撃より逃亡を優先したか。
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足元に魔法陣を形成し、人形を沈み込ませていく。
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ルリアゲハ
でも、深手を負わせたわ。あれじゃ、人に化けるのも難儀するでしょ。探し出すのは難しいことじゃなくてよ。
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リフィル
問題は、どう仕留めるかよ。見つけるたびに逃げられたんじゃ、話にならない。
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ルリアゲハ
確かに。何か方策を考える必要がありそうね。他の〈メアレス〉とも相談して。
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リフィル
首の奪い合いになる。
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ルリアゲハ
首を獲れないよりマシでしょ。それに、情報提供料だけでも値がつくはず――
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言いかけたルリアゲハが、ふと脇に目線をくれた。
そこにひとりの少女が降ってくる。 -
ミリィ
おっとと。
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近くの屋根から飛び降りてきた――のだろうが、どうにも勢いがつきすぎたようで、ほとんど路地に突き刺さるような着地となった。下手をすれば膝を壊しかねないところだが、全身でうまく衝撃を吸収したらしく、痛そうな顔はしていない。
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ミリィ
えーっと。あれ? もう倒しちゃった?
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ルリアゲハ
残念だけど、逃げられちゃったわ。ミリィ。
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ミリィ
えー、まじすか?
〈黄昏〉 と〈墜ち星〉 のコンビから逃げきるなんて、どういう〈夢〉してんです? あの〈ロストメア〉。 -
ルリアゲハ
自由の身になるのが望みだそうよ。
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ミリィ
あー、そういう系。あたし、いちばん苦手なタイプかも。
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リフィル
一撃で仕留めれば、逃げられる心配もない。
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視線は、少女の手にした武器に向いている。人の身の丈ほどもある、巨大な機械の塊――火薬の炸裂によって杭を射出する
杭打機 だ。 -
ミリィ
やー、それが。見つけたはいいもんの、これが、一発も当たんなくて。どーもああいうタイプって苦手なんすよねえ。
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背丈は小柄で、顔立ちもあどけなさが抜けきれていない。とても巨大な杭打機を使いこなせるようには見えないが、真実は逆だった。杭打機はその特性上、〝至近距離まで接近〟して〝急所を狙う〟という二重の
難題 を乗り越えなければ真価を発揮できない、おそろしく扱いづらい武器だ。異様に卓抜した戦闘センスの持ち主であるミリィくらいしか、こんな武器で戦おうとは思わない、というのが正確なところだった。 -
ルリアゲハ
なるほど。ミリィが見つけて追ってたところに、あたしたちが割り込んだ形だったわけね。道理で、急いで逃げていたわけだわ、あの〈ロストメア〉。
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ミリィ
で、どうすんです? あれ。
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リフィル
〈煙〉と話す。
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端的に言って、リフィルはすたすたと歩き出す。
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ミリィ
あ、やっぱそれかぁ。あたしも行っていいすかー?
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ルリアゲハ
好きになさいな。あの子はどうせ何も言わないんだから。
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ミリィ
うすうす!