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  1. ゾイスが去った後、酒場はやんやの喝采で満ちた。

    「旅の人、よくやってくれた」「俺から奢らせてもらうぜ」「俺もだ」と、居合わせた客たちが旅人――プグナのテーブルに集い、ここぞとばかりにゾイスの悪行を並べ立て始めた。

    いわく。

    〝族長のドラ息子〟ゾイスはもともと〈護神族〉の次期族長たるにふさわしい真面目な若者として知られていた。

    しかし半年前、現族長が病に臥せった頃から、粗暴なふるまいが目立ち始めたという。厳しい族長の目が届かなくなって、本来の傲慢な気質が表に出たのだろう、というのが村人たちの大方の見方だった。

    酒場に入り浸っては代金を踏み倒し、村の若人に喧嘩をふっかけ(これがまた憎らしいほど強かった)、娘たちに卑猥な言葉を浴びせて楽しむなど、彼の乱行は留まることを知らなかった。

    もちろん村人たちは怒りと屈辱に震えたが、族長の息子相手に逆らうことはできなかった。彼は遅くに生まれた一人っ子で、母親を亡くしていることもあり、父親にかわいがられて育ったのだ。

    ゾイスがどんなことをしているか、病に苦しむ族長の耳に入れるのは、あまりにも不憫なことだった。だからみな、耐えることを選んだ。

  2. ゴノム

    昼間でさえあんななのに、夜になると、村中で暴れ回ってやがる。外に置いてある樽やら何やらが、夜の間に壊されてんだ。出くわしたら何をされるかわからんからな、もう誰も夜は出歩かんようになったよ。

  3. ゴノムは、はあ、と大きく息を吐いた。

  4. ゴノム

    昔はあんな子じゃなかったんだがな。

  5. プグナ

    ぷう。

  6. プグナは、慰めるような声を上げた。

  7. その日の夜、ゾイスはいつものように外をうろついていた。

    ゴノムがプグナに語ったように、出歩く者の姿はない。嵐が去るのを待つように、みな家にこもってしんと寝静まっている。半年前なら灯りがついていた酒場も、夜中にまでゾイスに来られてはかなわんとばかり、「閉店」の札を出していた。

    こぢんまりとした素朴な村の中を、ゾイスはぶらぶらと歩く。

    右手に角灯ランタン、左手に楯。腰には肉厚のだんびらという物騒な出で立ちだ。喧嘩を吹っかける相手を探すように、あちこちをじろじろと見回し、村の端から端まで行ったり来たりする。

    ばさり、と大きな羽音が響いた。

    顔を上げると、夜空を埋め尽くす星々の一部が、黒い何かに喰われていた。それは、ばさりばさりと分厚い翼をはばたかせ、ゆっくり村の中央に降りてくる。

    月光が、その驚くべき肢体を照らし出した。

    鷲の上半身と、獅子の下半身を持つ魔物。

    鷲獅子グリフォンであった。

喰牙RIZE3 -Fang-O’-Blazer- サイドストーリー

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