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  1. 獅子の下半身が、どっしりと大地を踏みしめる。

    ゾイスは本物の獅子を見たことはなかったが、いくらなんでもこれほどの大きさではあるまいと確信できた。下半身だけで、雄牛の体躯と同等かそれ以上はあるのだ。当然、鷲の翼と上半身もそれに見合う大きさとなっており、本来の鷲のサイズとは比べるべくもない。ゾイスの背丈の二倍以上の高みから、猛禽の瞳がぎょろりと見下ろしてくる。

  2. ゾイス

    鳥目じゃねえのかよ。

  3. ゾイスのぼやきを聞き咎めたわけでもないだろうが、グリフォンは一直線に向かってきた。

    地面が揺れ、信じがたいほどの巨体がまっすぐに向かってくる。受け止めようものなら全身の骨がばらばらになってしまいそうだった。ゾイスはあわてて横っ跳びに逃れる。かなりすばやく動いたつもりだが、それでもぎりぎり突進に引っかけられかけた。

    かわされたグリフォンが足を止め、ゆっくりと身体の向きを変える。

    ゾイスは起き上がり、角灯ランタンと楯を捨てると、懐から一枚の呪装符を取り出した。

  4. ゾイス

    クソでけえな、クソ野郎。

  5. 毒づきながら呪装符を握り締めると、黒い魔力がその身を取り巻く。

    ゾイスの姿は一瞬にして変異した。

    頭から爪先まで、全身を青みがかった硬質の皮膚が覆う。手足には鋭い鉤爪が生え、目は爛々と赤く輝く。口は大きく裂け、無限のような暗黒をのぞかせた。

    魔人、とでも呼ぶべき姿に変じたゾイスは、身を低く屈めて構えた。

  6. ゾイス

    行くぜ!

  7. 言われるまでもないとばかり、グリフォンが突進してくる。ゾイスは逃れるどころか、真正面からぶつかりに行った。

    激突。凄まじい衝撃が全身に走る。「ぐぅううううっ」ゾイスは脚で大地を削るようにしながらも、辛うじて数歩の後退だけで踏みとどまった。

    突進の勢いが止まったところで、「うらあっ!」思いっきり腕を振り回し、獅子の下半身を鉤爪でざっくりと切り裂く。

    グリフォンが怒りの雄叫びを上げ、くちばしを振り下ろしてきた。ゾイスは身をよじってかわし、すばやく反撃を叩き込む。グリフォンは頭を振って悶え、たまらんとばかりはばたいた。強烈な風圧でゾイスが後ずさっている間に、宙へと逃れる。

  8. ゾイス

    クソ卑怯な真似しやがって。

  9. 空中にいられると、こちらからは手が出せない。突っ込んできたところをかわして、カウンターを決めるしかない。危険な賭けだった。

    ゾイスは覚悟を決め、敵を待つ構えを取る――

    瞬間、黄色い閃光が横ざまに走り、グリフォンの脇腹に突き刺さった。

    グリフォンの巨大な図体があっけなく吹き飛ばされた。

  10. ゾイス

    え?

  11. ゾイスがあっけに取られるなか、魔物は空中で体勢を立て直すこともできず、地面に落ちて苦しげにもがく。

    文字通り、それが最期の足掻きとなった。

    打ち所が悪かったのか、グリフォンはやがてぐったりと動きを止め、すうっと薄れて消えていく。

  12. ゾイス

    マジかよ。

  13. ゾイスは思わず間抜けな声を上げた。

    グリフォンを一撃で倒した黄色い閃光――その正体が、目の前の地面に悠然と立っていた。

  14. プグナ

    ぷう。

  15. 彼は、何事もなかったかのようにあいさつした。

喰牙RIZE3 -Fang-O’-Blazer- サイドストーリー

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