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  1. ゾイス

    くおっ。

  2. 首のひとつが、カッと口を開けて喰らいついてくる。いつか鏡で見た、魔人の顔そのものだった。

    ゾイスは地面に身体を投げ出すようにしてかわし、ごろごろと横転――自分で捨てた楯に辿り着き、拾い上げると同時に掲げた。ぎりぎりのタイミングで、魔人の首の突撃を受け止めるが、「ぐうっ」圧倒的な力に吹き飛ばされてしまう。

    そこへ、さらにみっつの首が伸びた。起き上がろうとするが、間に合わない。ゾイスは恐怖と戦慄に眼を見開く。

  3. プグナ

    ぷうっ!

  4. 瞬火瞬閃。

    電光のごとく割って入ったプグナの拳が、三方向からの嚙みつきを立て続けに弾いてのけた。

  5. プグナ

    〝天聖拳・覇皇極雷撃〟!

  6. 雷気をまとった双拳が、円を描いて空を撃つ。どん、と震えた虚空に蒼い火花が瞬いたかと思うと、それは荒れ狂う紫電と化し、猛然と渦を巻いて直進した。みっつの首が巻き込まれ、雷撃と衝撃の渦の中で、ぎゅるりとねじれて四散する。

  7. ゾイス

    クソすげえ!

  8. ゾイスは称賛と共に起き上がり、腰の剣を抜き放った。

  9. ゾイス

    あんたを見てると、血がたぎってしょうがねえ!

  10. 横合いから首が来る。ゾイスは楯を叩きつけるようにしてこれを受け流し、「うらあっ!」その勢いを借りて回転しながら、渾身の力を込めて剣で薙ぎ払った。〈護神族〉の本領たる剛力を活かし、分厚い装甲を打ち砕きながら肉を裂く。

    一方で、怪物は無数の尾を伸ばし、プグナに向かって驟雨のごとく降らせていた。プグナは滑るような足取りで大地を馳せ、降りしきる槍雨から逃れる。

  11. プグナ

    ライズ――〈武骨闘神〉!

  12. 〝顔あり〟の呪具が新たな呪装符を喰らう。プグナは足を止め、天地に拳を捧げるような構えを取った。隙ありとばかり怪物の腕が何本も殺到する。

  13. プグナ

    〝真・猛虎乱舞〟!

  14. ばぢん! プグナの拳が上下に合わさるや、凄まじいまでの雷華が咲いた。天地の雷気を束ねて混合し、真正面へと解き放ったのだ。猛虎の吼えるがごとき轟きとともに、雷の輝線が怪物の腕をまとめて塵に変えていく。

    怪物が悶えた。効いている! ゾイスは猛り立って剣を振るった。首の一本に二度、三度と斬りつけ、ついにこれを斬り飛ばす。

  15. 村人

    うわあああぁああっ!

  16. たまげるような悲鳴が背後で上がった。ゾイスはハッとして目線をそちらに向ける。

    戦いの音から、さすがに只事ではないと判断したのだろう。数人の男たちが家から飛び出し、思いもよらない怪物を目の当たりにして愕然となっていた。

  17. ゴノム

    ゾイス!

  18. 両手持ちの戦斧バトルアックスを手にしたゴノムが、一直線に駆け寄ってくる。

  19. ゴノム

    なんだこいつは! いったい何が――

  20. その背後から、ぐうんと伸びた首が迫るのをゾイスは見た。

  21. ゾイス

    危ない!

  22. 咄嗟に飛び出し、楯をかざした。魔人の顔の突進を、再び正面から受け止める。先ほどと違い、今度は心の準備ができていた。うまく角度をつけて逸らし、思いっきり蹴り飛ばす。

  23. ゾイス

    見ての通りの化け物だ! 危ないから下がってろ!

  24. ゴノム

    危ない、って――

  25. 腕が二本、挟み込むようにふたりを襲った。「おおっ!」「ちぇいっ!」ふたりは背を向け合うようにして得物を振るい、いずれ劣らぬ剛力で腕を叩き斬る。

  26. ゴノム

    おまえ、まさか、ずっとこんなのとやり合ってたのか!?

  27. ゾイス

    まさか! こんなでかいのは初めてだ!

  28. 首。腕。尾。大半はプグナが単独で相手取っているが、ついでとばかりにこちらに目移りするものもあった。ゴノムとゾイスは呼吸を合わせ、連携してそれらを打ち落とす。

  29. ゴノム

    じゃあ、なんだ! 一昨日うちの樽を壊したのは、これの小さいのか!

  30. ゾイス

    それは俺だ! 飛び道具にした!

  31. ゴノム

    あきれた奴だ!

  32. ゾイス

    仕方ないだろ! 矢が錆びてた!

  33. ゴノム

    そうじゃない! こんなことを隠していたとはな!

  34. だんびらと戦斧が怒涛と唸る。近づくものを薙ぎ払い、あるいは楯で防ぎ止める。

    堅固なる守りをなすために鍛え上げた肉体が、今、人生最大の真価を発揮していた。

  35. ゴノム

    後で話してもらうぞ!

  36. ゾイス

    生き残れたらな!

  37. ゴノム

    俺が守ってやる! おまえはツケがたまってるんだ!

  38. 勇ましい鬨の声が、ふたりの言い合いを遮った。村の戦士たちが、手に手に武器や楯を携え、一丸となって駆け込んできていた。

喰牙RIZE3 -Fang-O’-Blazer- サイドストーリー

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