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戦士たちの勝鬨が、冷たい夜を熱く震わす。
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ゾイス
勝った……
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ゾイスは、がくりと膝を突いた。
トーテムの力を借り受ける〝ロード〟は、使い手の体力と魔力を大いに消耗させる。初めて〝ロード〟に成功したゾイスは、まるで魂が抜けたような虚脱感を覚えていた。
ぽん、と肩に分厚い手が置かれた。ゴノムが、憮然とこちらを見下ろしている。 -
ゴノム
いろいろと。事情があったようだな。
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ゾイス
旦那――
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ゴノム
あの戦いぶりを見て、おまえの根性を疑う者はいない。だが、やったことはやったことだ。腹を割ってわけを話し、ツケを払い、迷惑をかけたみなと、族長に謝る。それだけはやってもらう。
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ゾイス
ああ。わかってる。でも今は――
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最大の功労者に礼を言うべきだ。そう思い、顔を上げて周囲を見回す。
しかし、プグナの姿はどこにもなかった。 -
ゾイス
あれ――あの人は?
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ゴノム
そういえば、見当たらんな……
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見た目からは想像もつかないほどの達人だった。ゾイスや村人たちが戦わずとも、彼ならひとりであの怪物を倒せたのでは、と思えるほどだ。
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ゾイス
(ひょっとして、わざと?)
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ゾイスが立ち向かってきた脅威を見せつけ、村人たちに奮起を促し、共に戦うことでゾイスへのわだかまりを解消させるために、あえてここで呪装符を割ってみせたのか。
ゾイスは、ちらりと割れた呪装符に視線をやった。
これまで倒してきた魔物は、この呪装符から生まれたものなのだろう。ゾイスは、呪装符が生み出した怪物を、呪装符の力で倒すという一人相撲を続けていたのだ。魔物がどんどん強くなっていったのは、村人たちの怒りと恨みが募った結果だったのかもしれない。 -
ゾイス
(だとすると、あの女は何がしたかったんだ?)
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呪装符をくれた女の、底知れぬ瞳を思い出す。この世のすべてを面白がるような瞳。ゾイスが何も知らず破滅への道を進むことすら、彼女にとっては享楽の一種に過ぎなかったのか。
呪装符の脇に、何かが落ちている。ゾイスは疲労困憊した身体に鞭打って、その何かを拾いに行った。
プグナのつけていた黒眼鏡 だった。
手に取ると、あの寡黙な戦士の眼差しが思い出された。
新たな道へ進んで見せろと、そう告げられているようだった。
この勝利を忘れるなと。過ちを犯しそうになったら、これを見て自分を思い出せと。
前に進む勇気と力を得るために、これをつけておけと――
ゾイスは星空を見上げた。
この空の下のどこかにいるであろうプグナへ向けて、ぽつりとつぶやく。 -
ゾイス
いや、つけねえから。