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  1. ゾイスはあわてて変異を解いた。こちらまで攻撃されてはかなわないと思ったのだ。

    しかし旅人は――後にプグナという名だと聞いた――魔人の姿のゾイスを見ても微動だにせず、ただじっと立っているだけだった。

  2. ゾイス

    あんた、強えな。あんなのを簡単に倒しちまうなんて。

  3. 声をかけても答えない。黒眼鏡サングラスの奥から(夜でも見えるのだろうか?)じっとこちらを見つめる。

  4. ゾイス

    ええと……

  5. いたたまれなくなって、ゾイスは頭をかいた。

  6. ゾイス

    なあ。あのさ。今のこと、みんなには内緒にしてほしいんだ。

  7. プグナ

    ぷう?

  8. プグナは首をかしげる。〝いったいどういうことなんだ?〟というニュアンスだろう。

    事情を話すべきかどうか、ゾイスは迷ったが、黙っていてもらうためにも腹を割ろうと決めた。

  9. ゾイス

    半年前から、ああいう怪物が夜な夜な村に現れてるんだ。前はもっと弱かったんだが、だんだん強くなってきてる。

  10. プグナ

    ぷう。

  11. ゾイス

    ちょうど親父が倒れた頃さ。俺は偶然、夜の見回り中に見つけて、戦って……負けそうになったとき、旅の魔道士がこいつをくれた。試作品だからもういらない、とかなんとか、よくわかんないことを言ってたけど。

  12. ゾイスは、先ほど使った呪装符を見せた。

  13. ゾイス

    ただの呪装符じゃない。〝顔あり〟なしでもライズできるし、クソ強え魔人に変異して、すごい力を発揮できるんだ。これなら怪物とも戦える。でも――

  14. プグナ

    ぷう?

  15. ゾイス

    こいつは、怒りや恨みを力に換えるんだそうだ。だから俺は、あえて恨みを買うようなことをして、戦う力にしてる。その……わかるだろ? 昼間のあれだよ。

  16. プグナ

    ぷう。

  17. 得心がいった、とばかりにプグナはうなずく。話のわかる相手で、ゾイスは心底ほっとした。

  18. ゾイス

    だからさ。このことを話されちゃ困るんだ。みんなには俺を恨んでもらわないと。今日の敵は、魔人の力を使ってすら危なかった。今後も村を守るためには――

  19. プグナ

    ぷう。

  20. 突然、プグナが呪装符を指(?)差した。

  21. プグナ

    ぷう。

  22. そして、次に地面を指差す。

  23. ゾイス

    これを置けって?

  24. プグナ

    ぷう。

  25. プグナは、重々しくうなずいた。

    なんだろう、と思いつつゾイスが言う通りにすると、プグナは、どこからともなく小さな人形を取り出し、すぽりと両手にはめた。

    そして、さらにどこからともなく取り出した呪装符を、片方の人形の口に喰わせる。

  26. プグナ

    ライズ――〝目覚めし天聖拳〟!

  27. カッ、と雷のごとき閃きがプグナの両手に宿った。ゾイスは驚きに目を見張る。

  28. ゾイス

    (〝顔あり〟の武器!)

  29. 呪装符を喰らい、込められた力を解放することのできる特殊な呪具。プグナは、それを使って魔人の呪装符の何かを調べようとしているのか――

  30. プグナ

    ぷう!

  31. 拳が、雷のごとく呪装符に振り落ちた。

    地面が激震し、呪装符が割れた。

  32. ゾイス

    え。

  33. そう。割れた。

    ものの見事に真っ二つだった。

  34. ゾイス

    ――っておい! な、な、何してんだあんた! ちょ、えええ、なんてことすんだよ!

  35. 思わずゾイスがプグナの胸倉(?)をつかんで食ってかかると、

  36. プグナ

    ぷう。

  37. プグナは、見ろ、とばかり、割れた呪装符を指し示した。

    ぶわっ、と。タコが墨を吐き出すように、呪装符の断面から黒い霧状の魔力が噴き出す。

    それは歪み、うねり、ねじれ、悶えながら、膨らみ、広がり、肥大化して、腕を、足を、胴を、首を、翼を形作っていく。無数に。

    ゾイスは、あんぐりと口を開けた。その間に、黒い魔力は完全に実体化していた。

    無数の首と無数の腕と無数の足と無数の胴と無数の翼を持ち、先ほどのグリフォンの数倍の大きさを誇る怪物。

    それが、鳥の群れが一斉に鳴くように、無数の咆哮を上げた。

  38. ゾイス

    なんだこいつ――なんでこんなものが――

  39. プグナ

    ぷう。

  40. 茫然となるゾイスの隣で、プグナは戦いの構えを取っている。

  41. プグナ

    ぷうぷう。

  42. 言葉の意味はわからなかったが、気をつけろ、というニュアンスだけは感じた。

    ゾイスの理解力を肯定するように、怪物が、無数の首を伸ばしてきた。

喰牙RIZE3 -Fang-O’-Blazer- サイドストーリー

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