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ほどなくして、丘の上の野盗団は壊滅した。
抵抗する者はミハネが残らず叩き伏せ、逃げる者、降参した者はユウェルが魔法で無力化した。結果、日が墜ちきる頃には、すべての野盗が陣地に転がる結果となった。
けがをした連中にミハネが応急手当てを施している間に、ユウェルは陣地の中央ではためく旗を手に取り、魔法による分析を行った。 -
ユウェル
やはりな。この旗が呪具――というか禁具だったんだ。
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ミハネ
結局、どういう効果だったんだ? 俺はなぜ勝てた?
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ユウェル
本来の実力差が戻ったからさ。
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ユウェルは肩をすくめた。
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ユウェル
この禁具は、
雰囲気 を媒介にして、人の精神に干渉するものだ。おまえがさっき負けたのは、野盗どもがみんな〝ベデンが勝つ〟と信じてたからさ。ついでにおまえもな。 -
ミハネ
俺も?
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ユウェル
〝ベデンが勝つ〟という
雰囲気 が、おまえの精神に干渉し、無意識に手加減させた。 -
ユウェル
それでも、最初の一撃を見る限り、実力差が覆るほどじゃなかったはずだ。しかし、攻撃を受けられたことで、おまえも
雰囲気 に呑まれた。〝ベデンは本当に強いんだ〟と思い込んでしまったんだ。素直にな。それで、本来の実力を発揮できなくなってしまった。 -
ミハネ
俺が勝てたのは、その
雰囲気 が崩れたからか。 -
ユウェル
そう。俺が空気を悪くしたことでな。
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ミハネ
なるほど。恐ろしい禁具だな。代償はないのか?
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ユウェル
ある。解析したところ、持ち主は性別が逆転してしまうらしい。
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ミハネは、カッと眼を見開いた。
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ミハネ
ベデンは女だったのか?
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ユウェル
なわけないだろ嘘だよ馬鹿。
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ミハネが憮然と黙るのを見て、ユウェルは呵々と大笑いした。
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ユウェル
そんなふうに人の言うことをすぐ信じる奴ほど、この禁具に呑まれやすい。手下連中も単純そうな奴らばっかりだったろ。
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ミハネは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
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ミハネ
それで、これからどうする。
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ユウェル
禁具は回収したし、あとは全員に魔法をかけて、街に出頭させるのがいいだろう。それで賞金をもらったら、飯でも食うか。
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ミハネ
野菜スープ以外のな。
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ぼそりとした一言に、またユウェルは笑った。この男の場合、冗談でも皮肉でもなく、本心から言っていそうなのが、大いに笑えた。
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ユウェル
そう、野菜スープ以外のだ。