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のろのろと顔を上げるユウェルに、ミハネは相変わらず何を考えているのか読み取れやしない表情のまま告げた。
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ミハネ
間違っていると思えば、そうと言う。だからさっきはそうした。これまでは違った。妥当だと思った。
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ユウェル
妥当? 今回の無茶苦茶な作戦もか?
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ミハネ
妥当だ。敵と戦い、正体を見極め、暴いて倒す。単純明快な作戦だ。
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ふと。違和感が湧いた。ユウェルは眉をひそめ、別の質問を投げた。
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ユウェル
負けるまであいつと戦ったのはどうしてだ? なんで律儀に俺の合図を待った?
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ミハネ
むきになった。
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その返答に、ユウェルは目をぱちくりとさせた。
ミハネは顔を歪め、不機嫌そうに視線を逸らす。 -
ミハネ
相手が強いとわかって……どうにか勝てないかと、むきになった。正直、合図のことなど忘れていた。すまん。
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ひょっとして――という考えが、ユウェルの脳内で現実味を帯びていく。
確認のため、もうひとつ尋ねた。 -
ユウェル
……宿の野菜スープ、どう思った?
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ミハネ
まずかった。まさかあれほどまずいものを出されるとは……しかし、出されたからには食べきるのが礼儀だ。あれはあれで、ひとつの戦いだった。
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何言ってんだこいつは。
心底から呆れ返りながら、ユウェルは自分の勘違いにようやく気づいていた。
こいつがこちらの言うことに従っていたのは、あてつけでもなければ、後でそれ見ろと言うためでも、こちらを騙そうというつもりがあるわけでもなく―― -
ユウェル
おまえ……ひょっとしなくてもアホなのか?
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結論を口に出すと、ミハネはムッと唇を結んだ。
一気にすべてが馬鹿らしくなった。
いちばん馬鹿らしいのは自分の考えだ。ネザン師亡き後のプレッシャーに負けて、勝手に邪推し、勝手に拗ねて――よく考えてみれば、「それ見ろおまえは間違っていた」と言うために我が身を危険にさらす奴がどこにいる。こいつはただ、正真正銘、真っ向から挑んで力ずくで解決するのが正しい、と思っていただけなのだ。
あまりの無様さと恥ずかしさに、ユウェルはがっくりうなだれた。 -
見張り
おまえらよう。
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天幕が開き、盛大に顔をしかめた見張りが首を突っ込んできた。
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見張り
さっきからうるせえんだよ。こんなとこでぎゃあぎゃあ口喧嘩しやがって。聞いてるこっちが気まずくってよ。空気が悪くならあ。
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ミハネ
すまん。
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ミハネが素直に謝った。敵に謝るなど何を考えているのか――いや。たぶんこいつは何も考えていないのだ。なんとなく、やっと、それがわかってきた。
見張りが立ち位置に戻ったところで、ユウェルの脳裏にふと、天啓が閃いた。 -
ユウェル
空気?
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そうか。まさか。ひょっとして。
閃きから理屈が組み上がり、爆発的な興奮が押し寄せる。
訝しげな顔をするミハネに、ユウェルはニヤリと笑みを向けた。 -
ユウェル
奴のからくり、読めたかもしれんぞ。