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ミハネに接触してきた男――呪具専門の売人だというが――や、街の人々に聞いた話を総合すると、野盗たちはたびたび街道に出没し、旅人や商人を襲って私腹を肥やしているらしい。
街では討伐隊を派遣すべしとの声も上がっているが、被害が個人レベルでしかないため、護衛の雇用を勧告したり、賞金を懸けて討伐者を募ったりする程度に留まっていた。
ただの野盗なら、ミハネにとっては相手にもならない。問題は〝最強の呪具〟を持っているという頭目だ。 -
男
どんな男も奴には敵わねえ。奴の手下は大半が、奴に負けて軍門に下った流れ者さ。
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要求された情報料を払ってやると、売人は上機嫌に語り出した。
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男
挑戦はいつでも受けて立つそうだ。腕に自信があるなら、やってみたらどうだ。
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その話を受けて、ふたりは方針を決めた。
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ユウェル
堂々と正面から乗り込み、頭目に挑戦する。おまえが戦ってる間に俺が観察して、敵の呪具の正体を暴く。その後、呪具を封じて頭目を倒し、残党を掃討する。
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こんな無茶苦茶を言えばさすがに反論せざるを得ないだろう――という皮肉を込めて告げると、ミハネは「それでいい」とばかりうなずいた。
ユウェルは戸惑ったが、本当に自信があるにしても、何か企んでいるにしても、とりあえずやらせてみようという考えに落ち着いた。 -
ユウェル
厳しければ撤退する。俺が合図したら逃走開始だ。〈白銀の竜騎士〉をライズして、一気に敵の包囲を抜け出す。
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ミハネ
わかった。合図を待つ。
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そう取り決めて、ふたりは野盗の根城に向かった。
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件の野盗は、街道から少し外れたところにある丘の上を根城としていた。
並べた杭に縄を張って粗末な柵をなし、そうして築いた〝陣地〟の中に、十個ほどの天幕を設けている。
陣地の中央には、立派な旗がはためいていた。野盗には不釣り合いだな、とユウェルはあきれた。
ユウェルたちは、あえて姿をさらしたまま、ゆっくり丘を登っていった。見張りに矢でも射かけられたら――とひやひやしたが、挑戦者を歓迎しているというのは本当らしく、特に咎められることなく柵の前に着くことができた。
革の鎧と安物の槍で武装した見張りに話を通し、中に迎えられた。
槍を突きつけられながら進んでいくと、あちこちの天幕から粗野な身なりの男たちが姿を現した。どいつもこいつも「狂暴」という形容詞を顔面で表現することに余念がなく、ユウェルたちをぎろぎろと盛んに睨みつけてきた。
奥にある最も立派な天幕から、小太りな小男が現れた。
何かの儀式のためにあつらえられたかのような華美な装飾だらけの長剣を手に、ずんずんと近づいてきて、ミハネから数歩離れたところで足を止めた。 -
ベデン
俺が頭領のベデンだ。
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小男は、ふん、ふん、と鼻息荒く名乗った。
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ベデン
おまえたちが新しい挑戦者だな。〝顔あり〟持ちとは、たいそうなこった。
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ミハネ
勝負がしたい。受けるか。
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ベデン
当然だ。おい、おまえたち、下がっていろ!
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ベデンが剣を振り回して叫んだ。野盗たちは言われた通りに後退し、ミハネとベデンを囲むように輪を作る。
ユウェルも、ふたりの野盗に槍を突きつけられながら下がった。