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しばらく経って、ユウェルたちはベデンに呼び出され、天幕を出た。
陽が暮れかかり、焚火と食事の準備が始められている。すでに酒をかっくらって陽気に騒いでいる連中もいた。
陣地の中央に座るベデンの元へ近づくと、彼はニヤニヤと笑みを向けてきた。 -
ベデン
さて、頭も冷えただろ。おまえたち、俺の仲間に――
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ユウェル
もう一回、勝負しろ。それで負けたら仲間になってやる。
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たちまち周囲の野盗たちから野次と罵倒が飛んだ。「男らしくねえぞ!」「何度やったって同じだ!」
彼らがひとしきりわめいたところで、ベデンが片手を挙げて黙らせた。 -
ベデン
いいぜ。それならもう一度やってやる。
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腹の肉を震わせながら起き上がり、装飾だらけの剣をつかむ。
応じて、ミハネが前に出た。
ベデンは意気揚々と剣を振り回し、自信に満ちた言葉を投げる。 -
ベデン
いいか。何度でも言ってやる。俺の方が――
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ユウェル
おまえは弱い!
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突如、ユウェルが腹の底から大声を発した。ベデンがぎょっとなる。
ユウェルはわめき散らすような大音声で言葉を連ねた。 -
ユウェル
おまえは詐欺師だ、ペテン師だ! 呪具の力で強いと見せかけているだけの臆病者だ! 今からそれを暴いてやる! 種はすべて暴いたからな、おまえはミハネには勝てない!
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ベデン
な――
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ユウェル
さあさあみなさんご注目! 化けの皮が剥がれるぞ! 前回の結果は覚えているな? あれがまったく逆になるって寸法だ! おまえも、おまえも、そこのおまえも、みんな騙されていただけだ! 奴は弱い! 何もかもがハッタリだ! 今からそれを見せてやる!
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ベデン
てめ――
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ユウェル
口を閉じてろ、クソ凡愚! おまえと話すと時間の無駄だ、おまえの存在自体が無駄そのもの――っておいミハネおまえいいから早くやれ!
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ミハネ
わかった。
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ミハネが動く。
激流のごとき打ち込み。前回防がれた初手とまったく同じ、袈裟懸けの一閃。
ベデンがあわてて反応しようとするが、その動きは明らかに鈍かった。
烈刀が、ベデンの左肩口を鮮やかに直撃する。
ぼぎゃり、と痛々しい音がして、ベデンが絶叫とともに倒れた。
血は出ていない。峰打ちだった。ミハネは、ひいひい泣きながらうずくまるベデンを見下ろし、ひとつうなずく。 -
ミハネ
なるほど、弱い。
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そして、あんぐりと口を開けている野盗たちを見回し、手にした刀を持ち上げる。
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ミハネ
武器を捨てて、降参しろ。刃向かう者は、すべて倒す。
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告げるや否や吹き抜ける旋風と化し、野盗の群れに突っ込んでいく。
剣閃が走り、数人の野盗が冗談のように軽々と吹っ飛んだ。そこでようやく他の野盗も我に返り、あわてて武器を捨てる者、怒りに任せて斬りかかる者、ほうほうのていで逃げ出す者など、陣地は一瞬で混沌の様相を呈した。
ユウェルはその間に手近な天幕の陰まで下がり、逃げ出そうとする連中に魔法を飛ばして昏倒させていった。
鬼神のごとく暴れ回るミハネを見て、思わずつぶやく。 -
ユウェル
そりゃ、あんな作戦を『妥当』と言うわけだ。
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そして、はあ、と盛大なため息を吐いた。