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  1. シューラ

    正直なめててすいませんでしたぁーっ!

  2. そんなシューラの謝罪など、吹雪の中では、まさに文字通りどこ吹く風だった。

    視界は果てしなく真っ白に染め上げられ、唸る轟音と容赦のない冷気で、耳が耳当てごと食いちぎられそうなほどに痛い。降り積もる雪は、重たい泥沼のように足を絡め取り、とても歩けたものではなかった。

    竜のフレーグが、「危険」と言うレベルである。人間にとっては、そもそも出歩くこと自体が無謀な環境だった。

    シューラにできることは、フレーグの背にしがみつき、道を示すことだけだった。フレーグの歩みは、いつも通りゆったりとしたものだったが、雪に阻まれて足を止めることもなく、着実に前へ進んでいく。それだけでなく、両の翼をかざして背のシューラを守る楯にしてくれているし、何より鱗を通して伝わってくる体温の高さが、この吹雪の中ではありがたい。あらかじめ日光を浴びておくことで、その熱を取り込み、さらに魔力で長時間維持させることができるのだという。これは、人間にはできない芸当だ。

  3. シューラ

    あ、フレーグさん、もうちょっと右。

  4. フレーグ

    承知しました。それにしても、禁具のありかなど、この吹雪の中でわかるものなのですな。

  5. シューラ

    禁具の気配っていうか、においっていうか。五感とは違うところで感じてるんだよね。

  6. 祝福を授けること以外に、禁具を封じることもまた、〈號食み〉の大事な役目である。

    魔法によって特殊な力を持たせた道具を、呪具と呼ぶ。中でも、極めて強力かつ極めて倫理的に問題のある魔法――禁術を付与された呪具を、禁具と呼ぶ。ものによっては触れることさえ危険なそれらを、〈號食み〉は身に宿すトーテムの力で封じることができるのだ。

    また、禁具の存在を感知する、特殊な感覚を備えてもいる。

  7. シューラ

    あんまり距離があると、わかんないんだけどね。村の中じゃぜんぜんだったけど、今は、はっきり感じる。

  8. やまない吹雪、というのが気になった。単なる異常気象ではなく、何らかの禁術や禁具のせいで起こっているものだとしたら――そんな、できれば当たってほしくない推測が当たってしまった結果だった。

  9. シューラ

    ちゃんと近づいてるから、もうちょっとしたら辿り着けるはずだよ。

  10. フレーグ

    私は平気ですが、シューラさまはいかがですか?

  11. シューラ

    ありがとう、だいじょうぶ。ただ、口の中に雪ばっか入ってきちゃって……雪も雪で味わい深いんだけど、さすがにおんなじ味が続くと、飽きちゃうんだよね。

  12. フレーグ

    我が家の特製果実ソースでも持って来ればよかったですかな。レイルも喜びますし。

  13. シューラ

    あ、それは味わってみたいなー。

  14. 言ってから、シューラは、「ん?」と首をかしげた。

  15. シューラ

    フレーグさん?

  16. フレーグ

    なんでしょう。

  17. シューラ

    今の、なんか、レイルちゃんがここにいるみたいな言い方だったけど。

  18. フレーグ

    いますよ。

  19. シューラ

    いるの!?

  20. フレーグ

    ええ。村からずっとついてきております。

  21. シューラ

    それ、だいじょうぶなの?

  22. フレーグ

    私の後をついてくるくらいなら、なんとかなるでしょう。あの子も竜人ですからね。

  23. フレーグの口調は、あくまでも、のほほんとしたものだった。

  24. シューラ

    すごいね。獅子は子を千尋の谷に落とす、みたいな。

  25. フレーグ

    おや、我が氏族の風習をよくご存じで。

  26. シューラ

    やるの!?

  27. フレーグ

    大人になってからでは、意味がありませんからな。翼が生えますので。

  28. シューラ

    でも、怪我しちゃわない?

  29. フレーグ

    しますよ。ですが、死にゃしませんので。

  30. シューラ

    大変だなぁ……

  31. シューラは、しみじみとうなずいた。

    人間の感覚で言うと、ちょっと虐待なんじゃないかと思ってしまったりもするが、強靭な肉体を持つ竜や竜人たちにとっては、〝転んだ我が子が自力で立ち上がれるよう見守る〟くらいの感覚なのかもしれない。

    この世界には、いろんなトーテムがある。その数だけいろんな氏族がいて、それぞれいろんな考え方や風習がある。「なにそれ!?」と思うことも多々あるが、それを認め、受け入れ、祝福を授けることが〈號食み〉の役割だ。

    そして、〈號食み〉として各氏族を回ってきたからこそ知っている。たとえ生き方も価値観も、見た目も能力も何もかも違う氏族であろうと、共通点が見つかることもあるのだと。

    たとえば――親が子を、子が親を思う気持ちは、多くの部族にとって、重く、強く、尊いものだ。

  32. シューラ

    私たちが、モニスさんを捜しに行こうとしてるって、そう思ったのかな。

  33. フレーグ

    あれは、もっと聡く、もっと強い子ですよ、シューラさま。

  34. フレーグは、鷹揚に笑った。

  35. フレーグ

    〈山の守り〉が弱まった原因を突き止める。父が果たせなかったことを、自分が果たす。そのために、あの子はついてきているのです。

  36. 揺るぎない誇りに満ちた微笑みだった。

喰牙RIZE2 -Tearing Eyes- サイドストーリー

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