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  1. シューラ

    いただきまーす!

  2. シューラは、にこにこと匙を伸ばした。

    客人に貸し与えられる、石造りの一軒屋の土間である。むき出しの地面の上に囲炉裏があって、焚かれた火がちろちろと鍋をねぶっている。

    鍋から深皿に移すのは、村人に分けてもらった野菜や豆類、冬に入る前にほふられた豚の塩漬け肉、雑穀パンなどを煮込んだスープだ。

    半ば崩れた肉と、いくつかの豆を匙にすくい、しっかりと頬張る。

  3. フレーグ

    このようなものですみません。もう少し余裕があれば、自慢の焼き菓子をお添えできるんですけどねえ。

  4. 囲炉裏の反対側に座ったフレーグが、残念そうに言った。

  5. シューラ

    んーん、おいしいよ、フレーグさん。

  6. 嘘ではない。〈號食み〉には、あらゆる氏族の名産品を口にする都合上、〝どんなものでもおいしく味わえる〟という地味な特殊能力があるのだが、それをさておいても、農村ならではの素朴な味わいは〝生きるために食べている〟という実感があって好きだった。都会の洗練された料理もそれはそれでよいものだが、味を飾らないこともまた、ひとつの味わいだ。

  7. シューラ

    そういえば、フレーグさんって、お食事どうしてるの? 竜って、いっぱい食べるんじゃない?

  8. フレーグ

    私のような老骨ともなると、食が細くなっておりましてな。霞ですみます。

  9. シューラ

    おお、上級者だ。霞は霞で、独特な味わいがあるよね!

  10. フレーグ

    最初は味気なく感じましたが、慣れてくると、日によって味の違いを楽しめるのが乙ですな。



  11. シューラ

    わかるー! 私、ちょっと冷たいヤツが好きなんだ!

  12. ふたりはしばし、霞トークで盛り上がった。

  13. フレーグ

    さすがは〈號食み〉。若い衆にはわかってもらえんのですよ。そういう竜たちは、冬が来る前に、〈白竜山〉で眠りにつくのです。獲物も少なくなりますからな。

  14. 〈霊翼族〉は、竜人と竜からなる氏族だ。竜人は里を、竜たちは山を住みかとしながら、協力して生きているのだという。

  15. フレーグ

    竜と竜人が、互いに力を合わせ、困難に打ち勝つ。それが、我が氏族の使命です。

  16. フレーグが、重い息を吐いた。

  17. フレーグ

    今、里にいる唯一の竜として、私がもっと注意していれば、レイルの父――モニスがいなくなることもなかったのですが。

  18. シューラ

    モニスさんは、どうしていなくなっちゃったの?

  19. フレーグ

    〈白竜山〉の、〈山の守り〉が弱まっているのかもしれないと言って、様子を見に出かけたのです。

  20. シューラ

    〈白霊竜の金色の翼〉のトーテムがある山だよね。

  21. この世界に流れ込んだ異界の存在の力は、呪装符という板状の呪具に変化する。なかでも伝説級の呪装符が、土地を変質させ、氏族を生み出すトーテムとなる。

  22. フレーグ

    ええ。〈白竜山〉の周辺には、その加護が働いております。ところが、ここ数日、激しい吹雪に見舞われておりまして、一向にやむ気配がないのです。

  23. シューラ

    トーテムに何かあったのかな……

  24. フレーグ

    それを確かめるため、モニスは山に向かったのです。竜ですら、出歩くには危険な吹雪でしたので、みな止めたのですが……結局、戻ってくることなく数日が過ぎました。私も連日、可能な限り捜索を試みてはいるのですが、手がかりひとつつかめておりません。

  25. シューラ

    …………

  26. 匙をくわえたまま、シューラは少し、考え込んだ。

    自分の立場と、村の状況。レイルの気持ちと、フレーグの思い。それらを頭のなかで組み合わせ、考えを整理する。

    問題解決は、料理に似ている、と思うことがある。手持ちの食材と、調味料、そのとき可能な調理方法を組み合わせて、最善の道を探る。世の中にはいろんな味わい、いろんな好み、いろんなやり方があって、「どんなときもこれがいちばん!」というものはないけれど、「そのときその場ならきっとこれ!」というものを探り当てることはできる。

    ある程度、ざっと考えをまとめたところで、シューラは口を開いた。

  27. シューラ

    目的地さえわかっていたら、吹雪の中でも遭難しないでいられるかな。

  28. フレーグ

    確実に、とは申せませんが、危険は大きく減りますな。

  29. おや、という感じで、フレーグが見つめてくる。どこか飄々ひょうひょうとした口調は、紳士的な客が、そっと今日の気分を告げて、料理人の「それでしたら」という言葉を待つのに似ていた。

  30. シューラ

    モニスさんの居場所はわからないけど、吹雪の原因がある場所なら、わかるかも。

  31. いつもより厳粛に、シューラは告げた。

  32. シューラ

    この吹雪が、何かの禁具のせいだったら――私は、それを感じ取れるから。

  33. 〈號食み〉の持つ、もうひとつの顔。

    禁じられた呪具を見つけ出し、封じ込める専門家としての、真剣きわまる表情で。

喰牙RIZE2 -Tearing Eyes- サイドストーリー

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