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  1. ラギト

    はあっ!

  2. 黒い旋風が荒れ狂う。

    〈ロストメア〉の魔力――闇色の人外魔装ブラスフェマス・ガーメントをまとったラギトの拳が、蹴りが、押し寄せる〈かけら〉の群れを薙ぎ払い、蹴散らし、文字通り千切っては投げながら、人擬態級への道を拓いていく。

    〈ロストメア〉と融合しているラギトは、その魔性を自在に操ることができる。こうして装甲をまとえば、身体能力は飛躍的に高まり、徒手空拳の一撃が砲弾並みの威力を備えるに至る。

    しかし、その姿は地獄から這い出た悪鬼そのものである。〈悪夢のかけら〉との激突も、余人の目には異形同士の殺し合いとしか映るまい。

  3. 〈ロストメア〉

    〈夢魔装〉ダイトメアラギト――。

  4. そんな光景を前に、人擬態級は恍惚と彼の名を呼んだ。

  5. 〈ロストメア〉

    〈ロストメア〉に半身を喰われ、夢を失った〈メアレス〉。畏怖と嫌悪の視線を浴びながら〈夢〉を潰して戦い続ける同類殺し!

  6. ラギト

    お詳しい。おおむねその通りだ。

  7. 〈ロストメア〉

    なんて浅ましい。なんて哀れましい。おまえこそ、私の子供にふさわしい!

  8. ラギト

    気に入っていただけて何よりだ。が、こちらにも選ぶ権利というものがある。

  9. 〈ロストメア〉

    そんなものなどありはしない。

  10. 〈夢〉の口が、嬉しそうに裂ける。

  11. 我が子を授かる夢

    私は〝我が子を授かる夢〟なのだから!

  12. ラギトの身体を魔力の嵐が取り巻いた。

    彼の発したものではない。潰し尽くした〈かけら〉たち――その魔力が渦となり、新たな仲間を求める亡者のようにまとわりついていた。

    ラギトは強引に前に出た。人ならざる膂力でもって、魔力の束縛を引きちぎるつもりだった。

    が。

  13. ラギト

    く――!?

  14. 装甲に覆われた膝が床に落ち、ばきりと床板が割れた。

    立ち上がろうとするが、できない。

    魔力で抑えつけられているわけではなかった。それなら跳ねのけるのは簡単だ。

    ラギトを縛っているのは、物理的な力ではなく――

  15. ラギト

    〈ロストメア〉の、能力か……!

  16. 我が子を授かる夢

    その通りよ、愛しい我が子。

  17. 女は、けたたましい笑声を響かせた。

  18. 我が子を授かる夢

    〝我が子を授かる夢〟。愛しい我が子を腕に抱く、そんな未来を夢見ながら果たせなかった哀れな女――その願いの残骸である私には、誰かを我が子にする力がある。従順で、忠実で、なんでも言う通りに動いてくれる我が子にね!

  19. ラギト

    辞書を引け。そういうのはしもべと言うんだ。

  20. 我が子を授かる夢

    どっちだっていいわ。私が叶うためならね! でも――

  21. 膝を屈したまま動かぬラギトを見て、女は眉を曇らせる。

  22. 我が子を授かる夢

    驚いたわね。かなり魔力を高めたはずなのに、それでも〝我が子〟にしきれないなんて。

  23. 〈ロストメア〉は魔力の塊である。そして、彼らの能力の威力は、魔力の量に比例する。

    ラギトは己が身に宿る魔力を振り絞り、 〈ロストメア〉のもたらす支配力に抵抗していた。

  24. ラギト

    それが狙いか。裏社会の人間たちを〝我が子〟として操り、魔匠具を集めさせて、その魔力を喰らう……なるほど、悪くない思いつきだ。

  25. 我が子を授かる夢

    そうでしょう? あなたのような強力な〈メアレス〉を〝我が子〟にすれば、安全に門を通ることができる。それになにより、魔力が大きければ大きいほど、叶う願いも大きくなるの――ひとりと言わず、二人三人、百人だって産めてしまう!

  26. ラギト

    おまえの願い主も、そこまで望んじゃいないだろうさ。

  27. 我が子を授かる夢

    そんなことないわ。彼女にとっては、子を授かることだけが唯一の望みだったのよ!

  28. 人擬態級は金切り声を上げて悶えた。その瞳から、つう、と透明なしずくがしたたる。

  29. 我が子を授かる夢

    でも、だめだった。彼女は子供を産めない身体になってしまったの。夢を捨てるしかなかったのよ! あんなに大事に抱いてくれた、私という夢を! そして絶望のあまり命を断った! そんなことってある? そんな悲しく嘆かわしいことって!

  30. 鬼女のような絶叫は、痛々しいほどの悲しみにまみれていた。

  31. 我が子を授かる夢

    私が叶えば、彼女もよみがえる。〝我が子を授かった彼女〟が世界に生まれる! 私は彼女に幸せになって欲しいのよ――愛する我が子に囲まれて、幸せな人生を送ってほしいのよ!!

  32. ラギトは、しばし目を閉じた。

    〈ロストメア〉の多くは、己を捨てた人間を恨んでいる。なぜ夢を叶えることを諦めたのかと――なぜ自分を捨てたのかと、それこそ親に捨てられた子供のように、悲しい憎悪を抱えている。

    だが、この人擬態級は違う。どんなに夢を叶えたくても捨てるしかなくなった――夢を捨てざるをえなかった願い主のことを、決して憎んではいない。夢を断たれた彼女の境遇を嘆き、現実の理をねじまげてでも彼女の願いを叶えようとしている。 まるで、理不尽な運命によって親と引き裂かれた子供が、艱難辛苦を乗り越えて親のもとへ帰ろうとするかのように。

  33. "
  34. ラギト

    (俺の夢も、そうなのか?)

  35. 自分の夢。友と抱いた、外へと羽ばたく夢。

    夢を断たれた者――それはラギトも同じだ。この掃きだめのような都市を出て、現実の世界へ羽ばたくという夢は、〈ロストメア〉に融合されたことで潰えた。今の自分が外に出れば、融合した〈ロストメア〉が現実化してしまうからだ。

    きっとどこかにいるであろう自分の〈ロストメア〉も、この人擬態級と同じように、自分を恨まず、自分のために叶おうとしているのだろうかと、ラギトは思った。

    思って、少し悲しくなった。

黄昏メアレス プレストーリー

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