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  1. 続いて、裏通りの酒場を訪れた。

  2. エインの夢

    奴らのアジトはここじゃない。

  3. ラギト

    知ってるさ。

  4. 中に入ると、塊のようになった匂いが、むわっと押し寄せてくる。
    酒、煙草、ロースト肉、なんだかよくわからないがとにかく身体に悪そうな何か――そんな匂いが混ざり合って、〝一見さんお断り〟を告げているようだった。

    〈夢〉は顔をしかめたが、ラギトは文字通りどこ吹く風といった様子で、ずかずか中に入っていく。

    昼間から飲んだくれているだけあって、客層は〝いかにもガラの悪いチンピラ像〟の博覧会という感じだが、彼を見咎める者はいなかった。

    ラギトは奥まったところにある席の手前で足を止めた。

  5. ラギト

    おう、グムサ。相変わらずいい飲みっぷりじゃないか。忘れたいことが多いのか?

  6. からかうような言葉に、ジョッキのビールをあおっていた大男が唸りながら振り向く。

  7. グムサ

    クソ〈メアレス〉のクソガキが、俺に喧嘩を売りに来やがったのか?

  8. ラギト

    あんたに何かを売ろうなんて物好きはいないさ。
    あんたの財布ときたら、入ったものを酒場ここで吐き出すようにできてるからな。持ち主と同じで。

  9. グムサと同席していた男たちが、げらげらと下品な笑い声を上げる。グムサは赤ら顔をさらに赤くして、勢いよく立ち上がった。

  10. ラギト

    俺はむしろ、買い物に来たんだよ。知りたいことがある。

  11. グムサ

    誰がてめえなんかに。

  12. ラギト

    教えたくなるようにしてやろうか?

  13. ラギトはおもむろにシャツと上着を脱いで、手近な椅子に放り投げた。

    あらわになった上半身を見て、酒場中から唸り声やどよめきが上がる。
    野生の獣めいてしなやかに引き締まった筋肉はもとより、あちこちに走る古傷の数々が、屈強な荒くれたちすらも瞠目させていた。

  14. ラギト

    あんたの三連敗だったな、グムサ。

  15. グムサ

    ここで勝てば、連敗じゃあなくなるぜ。

  16. グムサも上着を脱いだ。筋骨隆々で、熊のようにずんぐりとしている。

    たちまち酒場中に喝采があふれ、マスターが慣れた様子で賭けを仕切り始めた。少年給仕がトップハットを逆さに持って走り回り、賭け金を集めていく。

  17. ラギト

    行くぞ。

  18. グムサ

    おうよ。

  19. 殴り合いが始まった。

    体格差は歴然で、普通なら勝負になるはずもない。しかし、ラギトは一歩も退くことなく、拳を固めて前に出た。

    たちまち激しい拳打の応酬が始まり、観客たちの熱狂の声が酒場を揺るがす。

    〈夢〉はあきれ顔で手近な柱に背中を預けた。

  20. エインの夢

    あいつなら、もっと楽に勝てるだろうに。

  21. グムサは見かけ倒しではないらしい。ラギトの拳を何発も受け、ぐらつきながらも、豪快な反撃を繰り出している。

    ラギトも顔や腹に何度か強烈なパンチを喰らっていた。大きくよろけて倒れそうになりながら、踏みとどまって拳を挙げ、観客たちの一喜一憂を誘う。

    酒が入っていることもあり、グムサの攻撃は大振りで単調なものだ。見栄えは派手だし威力もあるが、最強の〈メアレス〉と呼ばれるラギトなら、避けるのは難しくないはずだ。

  22. あえて喰らっておるのさ、あれは。

  23. 〈夢〉の隣で声が上がった。柱の下に座り込んだ男が、煙管キセルの煙を吐き出しながら、妙に爺むさく笑う。

  24. 一発ももらわず打ち倒す強さもあれば、何発もらおうと耐えきって倒す強さもある。特にこういうところでは、後者の方が好かれるねえ――周囲の観客も、あのグムサにしても、実際に殴られてなお向かってくるタフさを見れば、認めるしかなくなるというものさ。

  25. エインの夢

    そんなもんかな。

  26. 〈夢魔装〉ダイトメアに関しては、殴り合えば気持ちが通じると本気で思っているフシがあるがね。

  27. 歓声が、ひっきりなしに上がり続ける。ラギトとグムサ、双方のタフネスを讃える声だ。

    ラギトがグムサの顎に渾身の一発を叩き込むまで、止むことがなかった。

黄昏メアレス プレストーリー

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