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  1. 〈夢〉の話を聞いたラギトがまず向かったのは、都市の中央広場――現実へとつながる門の前だった。

  2. エインの夢

    〈メアレス〉が〈ロストメア〉を門に案内するなよ。

  3. あきれる〈夢〉に、ラギトは肩をすくめた。

  4. ラギト

    昼間なら問題ないさ。門は黄昏時にしか開かないからな。ただ、気をつけておいた方がいい――〈ロストメア〉だとバレれば、袋叩きにされるぞ。

  5. エインの夢

    そのために連れて来られたんじゃないかって思うよ。

  6. ぶつくさ言う〈夢〉に構わず、ラギトは広場をザッと見回して目的の人物を見つけた。

  7. ラギト

    〈魔輪匠〉ウィールライト

  8. 呼びかける。門の前で都市の職員らしき男たちに指示を下していた若者が、仏頂面で振り向いた。

  9. レッジ

    仕事の邪魔が趣味なのか、〈夢魔装〉ダイトメア

  10. じろりと睨みつけてくる視線の強さが、鮮やかな赤毛と相まって、触れがたい炎を思わせる。
    だが、気炎万丈と表現するには覇気が足りない。むしろ、内に閉じ込めた鬱憤が、言葉や仕草の端々に苛立ちとなって表れている。

    暗くくすぶり続ける熾火に似ていた。

  11. ラギト

    悪いな。あんたに聞きたいことがあるんだ。最近、魔匠具を専門に狙う窃盗グループがあるらしいが、知ってるか。

  12. レッジ

    ああ。ユバル社を始め、複数の企業が輸送中の魔匠具を奪われている。個人でも、路地で後ろから殴られて魔匠具を奪われたとか、そういった報告が絶えない。

  13. 〈魔輪匠〉ウィールライトレッジは、物品を加工して古代の魔法を疑似的に再現した品――魔匠具製作の専門家であり、都市最大の魔匠具である門の管理者である。
    ユバル社などの魔匠具開発会社は、いずれもレッジと密にやり取りし、技術面での監修を得ているという。

  14. ラギト

    思っていたより大規模だな。魔匠具は金になると見ての犯行か。

  15. レッジ

    だったら銀行なり宝石商なりを狙った方が、得だと思うが。魔匠具はこの都市の特産のようなものだが、極端に価値があるわけでもない。

  16. かつて存在した魔法という技術が廃れたのは、人々が魔力を失ったからだ。

    今では、魔力を手に入れる手段はただひとつ――〈ロストメア〉を倒し、その肉体を構成する魔力を奪うことに限られる。

    だから、使用・製造において魔力を要する魔匠具は、レッジの言うようにこの都市の特産品である。もっとも、魔力を補充しなければならない都合上、都市の外――現実の世界においての需要は少ない。

  17. ラギト

    〈戦小鳥〉ウォーブリンガーの杭打機やあんたの弓のような強力な魔匠武器を手に入れ、戦力強化を目論んでいる、という線はないか。

  18. レッジ

    なさそうだ。どちらかというと、非戦闘用の魔匠具が多く盗まれている。武器類は警備体制が厳重だからだろうな。

  19. ラギト

    となると、魔匠具を専門にする理由がわからんな。

  20. レッジ

    案外、ただの好事家マニアの仕業かもしれん。どちらにせよ、迷惑な話だ。

  21. レッジは吐き捨てるように言った。

  22. レッジ

    で、なんでおまえがそんなことを調べる。

  23. ラギト

    ちょっと野暮用でな。

  24. レッジ

    〈ロストメア〉を狩る。それが〈メアレス〉の役目だ。関係ないことにうつつを抜かして、その間に門を通られたんじゃ話にならん。警察に任せておくんだな。

  25. そう言って、話は終わったとばかりきびすを返し、門の方へ向かっていく。

    ラギトも来た道を引き返した。〈夢〉が不機嫌そうな顔で待っていた。

  26. エインの夢

    意外と嫌われ者なんだ。

  27. ラギト

    あいつは誰に対してもあんなさ。

  28. エインの夢

    ふうん。そりゃずいぶん感じの悪い奴だね。

  29. ラギト

    〈メアレス〉には珍しくない。

  30. エインの夢

    なら、〈メアレス〉自体がろくでもないってことだ。

  31. ラギト

    言えている。

  32. 笑い、ラギトは広場を後にした。

黄昏メアレス プレストーリー

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