コロカ事業
神奈川・三崎まぐろ漬
- 店舗レポート
こだわりが生んだ元祖「まぐろ漬」
三崎の町に羽床の店が生まれたのは、昭和7年。最初は漁師さん向けの居酒屋でしたが、やがて、干物をつくる水産加工の事業をはじめるようになります。
凝り性だったのが、築地で修行を積んだ二代目・羽床信次さん。当時はまだ流通が悪く、生魚は3日ほどしか保ちませんでした。美味しい魚をどうやって遠くに届けるか。信次さんが研究に研究を重ねて生みだしたのが、まぐろの味噌漬・粕漬でした。
今は、三代目・羽床亘さんが跡を継いでいます。卸売はやらずに、自前の工場でつくり、自前の店舗で売る。美味しいままお客様に届ける事を、選び続けています。長年の歴史から、漁船と特別な信頼関係で結ばれているので、欲しい魚を直接頼んで仕入れることができるそうです。日本で手に入る白皮カジキの7割は、羽床総本店で仕入れているとか。
カジキマグロを銘刀で捌く
まぐろ漬の原料に使われるのは、今はほとんど獲ることができないという白皮カジキです。太平洋やインド洋に生息するこのカジキ、大物になると、角の部分を除いても体長3メートル、重さ450キロを越えるそうです。もう、またぐことすらできません。
ちなみに、「カジキマグロ」という呼び名は一般的ですが、厳密に言えば、カジキは「まぐろ」の仲間ではありません。カジキとまぐろの習性が非常に似通っていたことから、古くからそう呼ばれるようになったのです。
この巨大な魚を、職人が美味しい部位を見定めて、捌いていきます。使っているのは、刀鍛冶、藤原有次(ふじわらありつぐ)を祖とする、400年以上続く築地の包丁店「有次」のなかでも特別な「別打(べつうち)」。切り身がほんの少しでもざらつかないように、毎日研いでいるそうです。磨き抜かれた包丁は、5年間で半分の大きさになっていました。
一匹ごとの魚に合わせて漬け込む
まぐろの粕漬に使うのは、丹沢山地で造られた地酒を絞った酒粕です。味噌漬には、1688年に創業した「ちくま味噌」による辛口の赤味噌が使われています。ちなみに、ちくま味噌の創業者は、討ち入りを果たした赤穂浪士とも親交があったそうです。
これらの厳選された調味料をベースに、店舗のとなりにある加工場で、秘伝の配合が行われます。人工的な甘味料や保存料は使いません。カジキの個体差・魚の身の質によって、漬かり方がさまざまな点が難しいところです。
「一番のこだわりは、手作りです。まごころを、ふうっとこめるんです」とは羽床亘さんの言葉。まさしく、熟練した職人の手によってまぐろ漬はつくられています。