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神奈川県大磯町「井上蒲鉾店」のはんぺん


 

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【”はんぺん”の真実】

「はんぺんと聞くと、どんなものを連想されます?」

にこやかに微笑みながら、井上さんが質問を投げかけてきました。少し戸惑っていると、

「普通はおでんに入っているような、芋などを混ぜた、あのフワフワしたものをイメージしますよね。その一方で、しんじょって聞くと、魚や海老のすり身を蒸したぷりぷりした食感を連想するんじゃないでしょうか。」と、続けておっしゃいます。

 

「でも、違うんです。」

 

“真薯(しんじょ)”とは元々、芋の入ったものを文字通り「真の薯(いも)」として“しんじょ”と呼んでいたのですが、どういうわけか一般的に指すものは、それぞれ逆転してしまっているようです。

「ウチの“はんぺん”は、薯やその他のつなぎは一切使わず生魚のみで作っているので、普通のイメージで食べると、ちょっと『あれ!?』と思うかもしれませんね。」

そんな「井上さんのはんぺん」を実際に食べてみました。

「焼いたりしないで、そのまま食べてみてください。」

 

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【概念を変える食感】

井上さんの言葉通り、そのまま“はんぺん”を手にとると、触った瞬間に違いを実感します。

指を押し返すはんぺんの弾力、ひんやりとした温度を感じる指の腹の面積、手首にまで感じる重み、それを受けて自然と指に入る力など、これまで食べてきたはんぺんとは明らかに異なります。

どんな食感かワクワクしながら口元に近づけると、まずは鼻腔に磯の香りが運ばれ、海の恵みを感じます。つなぎのない生魚ならではの旨みへの期待感が高まります。

唇に当てると、ひんやりとした冷たさと重さが伝わった後、ぷるんっという弾力がとても心地良く、それに続いて歯に当たって揺れる感触が、はんぺんを持つ指にも伝わります。

噛んだ際のしっかり感と切れの良い歯ざわり、それに続いてはんぺんが跳ねていく様子が口の中で感じとれ、まさに食べていて楽しい感触です。

「これは、ハマりますね。」

と、思わずつぶやいてしまうほどで、今までのはんぺんの概念が変わってしまいました。

 

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【日本中ここにしかないもの】

先に聞いた井上さんの話からすると、どちらかというと今の”しんじょ”に近い食感かもしれませんが、実際のところ全く違います。つなぎもなく蒸して冷やしただけのシンプルさは、魚本来の旨みが凝縮されていて、ギューっと天然のものだけが詰まっていることがわかります。

旨みの濃さが舌や口の中に美味しく広がり、そして再び鼻腔に風味が伝わります。飲み込む際の喉を通る感触も、スッキリとした気持ち良さ。

不思議だったのは、熱いものを食べているわけではないのに、噛んでいる最中に鼻でたくさん息をしてしまっていたこと。この風味を少しでも楽しもうと無意識にしていたようです。

この驚きの“はんぺん”は、かつて大磯に別荘を構えていた吉田茂元首相も特に好んでいたそうで、そのご子息・吉田健一氏も著書の中で「日本中ここにしかないもの」と称えています。

「ウチのはんぺんは全て手作り。理由は、この作り方でしか出せないからなんです。」

創業以来変わらぬ作り方を、井上さんは誇らしげにおっしゃっていました。

 

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