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ウィズ
星がきれいにゃ。
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月明りと星の光だけが砂丘の輪郭と、それに似た丸みを讃えた猫の輪郭を浮かび上がらせている。
ごく普通に考えれば、それは美しいと形容されるべき光景だ。
だが君は、呑気なものだな、とわずかに反感をおぼえていた。 -
ウィズ
なんにゃ? 星がきれいだと呟くのも猫には許されないにゃ?
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そうじゃないよ、と君は否定し、起こしていた半身を砂の上に沈める。
この師匠、計算ずくでこんなことを言っているのだ。
こちらは昼から熱い砂漠の地で、働きづめである。もはや精根尽き果てた。
戦いで疲れた体は、心持ち、深く砂の絨毯に沈んでゆくような気がした。
昼間に蓄えた温もりがまだ残っており、君は疲労感とともに、一滴の水のように砂の中に吸い込まれる。 -
オルハ
こんなところで寝たら、ダメですよ。魔法使いさん。
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そうだったと、無理やり体を起こす。
眠りたいのは山々だが、このまま眠れば、朝になる頃には凍えてしまう。
砂漠の気候は、昼だろうが夜だろうが結局過酷なのだ。 -
オルハ
ありがとうございます。これでもう〈歪み〉の向こうからやって来る者もいないでしょう。
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異界の〈歪み〉を感じることが出来るオルハから連絡があったのは数日前だった。
行ってみると、砂漠の中に巨大な流砂が生まれていた。
多くの〈歪み〉が空に現れるが、今回は地面に現れた。
砂が〈歪み〉の中に飲み込まれ、生まれた空洞に多くの砂が流れ込み流砂となった。
やってきた魔物以上に地形の変化が厄介だった。 -
ウィズ
あの魔物は魔界の生き物みたいだったにゃ。
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ウィズの言う通り、おそらく魔界の生き物だろう。何度か行ったことがあるので、すぐにわかった。
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ウィズ
つまり、あの穴の中に入れば、魔界に行けるかもしれないにゃ。
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オルハ
ウィズさん、迂闊なことはやっちゃだめですよ!
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ウィズ
そうにゃ? 自分から行ったことはないけど、私たちは何回か〈歪み〉を通って異界に行ったことがあるにゃ。
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オルハ
ですが、同じ異界と言ってもウィズさんが知っている時代とは限らないですよ。
移動は出来ても同じ時代に行けるかは運次第です。
それに、ウィズさんと魔法使いさんがバラバラの時代に飛んでしまうことだって……。
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ウィズ
にゃにゃ!それは困るにゃ。それは大変なことにゃ。
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クエス=アリアスでゆっくりしているのが一番だ、と君は言う。
ウィズも納得したように、頷く。 -
ウィズ
異論はないにゃ。
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とりあえず、クエス=アリアスの定食屋が供してくれるであろう食事にありつくため、君たちは砂漠を後にすることにした。
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オルハ
ええ、この〈歪み〉は放っておいても、自然に閉じるでしょう。
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と君たちは揃って、流砂が生み出した巨大な窪みに背を向ける。
(爆発音) -
ウィズ
うにゃ!!
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示し合わせたように、爆発が起こった。流砂の窪みからものすごい勢いで砂が吹き上がる。
わずかな時間、その光景に目を奪われていたが、君はふと窪みの縁に誰かが倒れていることに気がつく。 -
リュディ
う……うう、リザ……。
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その時に聞いた名と目の前の少年が、かつて会ったことがあるとは、さすがに君も気づかなかった。
その場では。
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《続きは「双翼のロストエデンⅢ Lord of Evil ―魔王―」本編にてお楽しみください》