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  1. 当然、追いかけようとしていた少女は、人ごみの中に消えていた。
    それでも、アリスを受け止めていなければ、今頃どうなっていたかわからない。

  2. アリス

    いつもいつもごめんなさい、魔法使いさん。

  3. ウィズ

    怪我がなくてよかったにゃ。ほんと、どうなることかと思ったにゃ。

  4. 君は謝るアリスを安心させるために、気にしないでいいと言う。
    けれども彼女は落ち込んでいるようだった。

  5. アリス

    私って、魔法使いさんに助けられてばっかり……。

  6. ウィズ

    落ちてくるなら、受け止めるのは当然にゃ。

  7. ウィズは言い終わると、ふと思いついたように呟く。

  8. ウィズ

    もしかして、縁があるってこういうことかもしれないにゃ。

  9. もうちょっと穏やかな縁であってほしい。君はウィズの意見にそんな風に思う。

  10. アリス

    縁……。そうだ。魔法使いさん、実はお願いが……。

  11. 初めは勢いよく声を上げ、最後は少し気まずそうに声はすぼんでいく。
    彼女なりに大事なことを思いついたのだろうが、この状況で言い出すのは気が引けるかもしれない。

    君は、これも縁だから、とアリスが言葉の上に置いた蓋を取ってやる。
    アリスはとても嬉しそうに目を輝かせた。

    そこは一軒の邸宅であった。
    周りを囲う柵は、生い茂った葉で覆われ、上品な花々がぽつぽつと控えめに顔を出していた。

    門から邸宅の入り口まで続く小径も、夏の濃い緑色が綺麗に整えられている。
    そこだけ時間がとまっているようで、まるで造形物のような美しさがあった。

  12. アリス

    さ、こっちです。

  13. と、アリスに導かれるまま小径を歩いていると、入り口からは見えなかった中庭で、何やら楽し気な様子で談笑する姿が見えた。

  14. セリーヌ

    あ、アリス。遅刻よ、どこ行ってたの?ティータイムに遅れちゃダメなんだよ☆

  15. のんびりとした声で、君とアリスに呼びかけるのは、セリーヌ・エヴァンス。こう見えて神様である。
    間延びした言葉は、じっくりと現在を楽しむようでもある。

  16. セリーヌ

    魔法使いさんも一緒なのね。さ、ふたりとも、座って座って。お茶いれるね。

  17. エイミー

    お待ちください。セリーヌ様は座ったままで。いまルドルフ様が席を用意してくださいますわ。

  18. ルドルフ

    吾輩ですか……?

  19. 席を立ちかかるセリーヌを制したのはエイミー・キャロル。時計塔のメイドである。

    ルドルフにやんわりと殿方としての振る舞いを促しながら、彼女自身もそつなくアイスティーを人数分用意する。
    手慣れた動きは華麗ですらあった。

  20. ステイシー

    さあさあ、ティータイムに一番大事なのは、楽しいおしゃべりだよ。魔法使いが楽しませてくれるさ。

  21. みんなを楽しませる自信はないと、前置きして席に着く。

    君に無茶な役割を振るのは、時計塔の女神のひとりステイシー・マーキュリーである。
    未来とは彼女らしく向こう見ずなのだろう。

  22. イレーナ

    お久しぶりですね。

  23. 着席した君に、懐かしさをにじませながらそう言ったのは、イレーナ・フリエル。

    短い一言ではあったが、過去を司る彼女らしさがある言葉だった。
    現在、未来、過去。3つの時間を司る女神や、ルドルフ、それにエイミーやミュウもいる。

  24. ミュウ

    こんにちは。

  25. エリカ

    おやおや、これは懐かしい人に会えてとてもうれしいです。とエリカは社交辞令的に言います。

  26. ウィズ

    そっちこそ相変わらず一言多いにゃ。

  27. そして、アリスの分身であるエリカも。ヴァイオレッタは外に出るのが嫌だったらしく、その場にはいなかった。

    それは、いつか出会った頃と変わらない面々だった。ただ、ふたつほどいつもとは違う。
    時計塔ではないこと。それとユッカがいないことを除けば。

  28. ウィズ

    それにしても、みんな一体どうしてここにいるにゃ?

  29. ウィズの言う通り、彼女たちは時間を管理する役割上、時計塔を離れるわけにはいかない。
    しかも、そうそう簡単に外には出られないという話ではなかったのか。
    そんな疑問を君は抱いた。

  30. アリス

    その……いま私たちは……。

  31. アリスは言いよどむ。迷いが見えた。

  32. イレーナ

    いま私たちは時間を取り戻すために、ここに来ているのです。

  33. はっきりと言い放ったのは、イレーナであった。

  34. ステイシー

    ユッカはお留守番さ。全員がいなくなるわけにはいかないからね。

  35. セリーヌは黙って、グラスを見つめながら、ストローでアイスティーをかき混ぜていた。

    こういう時、彼女は他のふたりに任せるのだ。
    それは決まって、真剣な話の時である。

    グラスの中で氷が音を立てている。きゃらきゃらと涼しげな音。一定の音。
    イレーナが取り戻すと言った時間は、アイスティーの中で泳ぐ氷のようには、もう動いていないのだろうかと君は思った。




  36. 続きは
    「時詠みのエターナル・クロノスⅢ ~さよなら、サマー~」
    本編にてお楽しみください

時詠みのエターナル・クロノスⅢ ~さよなら、サマー~ 先行プロローグ

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