聖なる空のエステレラ2 星に捧げる聖夜の物語
「プロローグ」
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ウィズ
にゃにゃ……!?いつの間にか異界の歪みに呑まれてしまったみたいにゃ。
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聖夜が近くなり人々が浮かれだす時期。つい先ほどまで、君とウィズは街の見回りをしていた。
路地裏で怪しい光が発生したかと思ったら、瞬く間に呑みこまれてしまった。 -
ウィズ
それにしても、間が悪いにゃ。こんな格好をしているところを異界の人に見られたら、クエス=アリアスのことを誤解されるにゃ。
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ウィズ
特にキミにゃ。さすがにその格好で見回りはふざけすぎにゃ。
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返す言葉もなかった。
ウィズが聖人の仮装をしていたからといって、自分までトナカイの仮装をする必要はなかったかもしれない。
浮かれていたことを悔いる君は天を仰ぎ――
満天の星に目を奪われた。
この美しい星々。そして遠くに視線を向ければ、絢爛とした宮殿エークノームが見える。 -
ウィズ
にゃー! 知ってる異界でよかったにゃ!
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君は安堵の息をついてから、エークノームに向かおうとするが――
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ウィズ
キミ、待つにゃ。
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ウィズ
エークノームには不思議な結界が張られているはずにゃ。歩いても無駄足になるから、誰か来るのを待つにゃ。
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そういえばそうだった。いくら歩いても一向にエークノームに近づけなかった過去を思い出す。
手持ち無沙汰の君は周囲を見回してみるが、辺りには雪くらいしかない。
いや、一面に広がる白いそれは、雪ではなく雲だった。
君はふと興味を抱いて、雲をすくい取ってみる。
ひんやりしているが、新雪以上にふわふわと柔らかな感触だった。
童心に返った君は、雲を雪玉のように丸めて遠くへ放ってみた。雲の玉はふわりとした軌道を描いて飛んでいく。
もうひとつ握ろうとしたが、手がかじかむのでやめた。童心は既にどこかへいってしまったようだ。
じっとしていると、身体の芯から冷えていくような寒気に包まれる。
無駄足でも歩いたほうがいいかもしれない。そう提案してみるが、ウィズはいい顔をしない。 -
ウィズ
無駄足はしてやられてる感があってイヤにゃ。四聖賢として、そういう真似はしたくないにゃ。
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無駄足って言うけど、そもそもウィズは歩かないでしょ。文句を言うなら肩から降りてくれない?
そんな悪態をつきそうになるが、思いとどまる。寒さのせいだろうか。些細なことにも苛立ってしまった。
仕方なく震えながら立ちつくしていると―― -
リアラ
セイクリッド聖女雲かき!
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マーガレット
サイフォン・クラウドショベリング!
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宮殿へと続く階段のほうから、聞き覚えのある声が近づいてくる。
にゃ!聞くだけで温まってくる暑苦しい声がするにゃ!
君とウィズの前に聖女見習いリアラと恋の天使マーガレットがやってきた。
しかしふたりは君を一瞥すると、警戒心をあらわにする。 -
リアラ
マーガレットさん!怪しい魔物がエークノームへの侵入を試みています!
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マーガレット
きらびやかに飾り付けてるけど……あの角は凶暴さの証!
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リアラ
トナカイの魔物でしょうか?調教すれば、ソリを引くのに役立つかもしれません!
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マーガレット
つまり……私たちの負担が減る!
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マーガレットが君を見据えて弓を引き絞る。
ちょっと待って! と君は叫ぶ。 -
リアラ
どうやら人の言葉を喋る魔物のようです!
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ウィズ
魔物じゃないにゃ! 私たちにゃ!
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マーガレット
人の言葉を喋る猫を連れている……ってあれ!?いつかの黒猫さん!?ということは……。
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君はトナカイの覆面を外した。
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マーガレット&リアラ
魔法使いさん!
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君は驚かせてしまったことをふたりに詫びた。
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リアラ
すっごくお久しぶりです。いったいどれぐらいぶりでしょう?
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リアラ
あの頃はまだ聖女見習いだったリアラが、今では立派な……いえ、今でも立派な……聖女見習いです。
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ウィズ
ふたりはなにしてるにゃ?雲で遊んでるのかにゃ?
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リアラ
遊びじゃありません、雲かきです。雲かきは聖女見習いの仕事ですから。
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リアラ
できたての雲はやわらかいですが、冷気にさらされ続けるとカチカチになっちゃうんです。やわらかいうちに雲かきしないと大変で。
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どうやら雲かきは、雪かきのようなものらしい。
きれいな階段状になっている雲の道も、聖女のたゆまぬ努力のたまものなのだろう。 -
マーガレット
夏場はちょっとサボっても大丈夫ですけど、冬場はまずいですからね!
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マーガレット
この季節、雲かきは聖女見習いの重要な仕事のひとつ……って私天使なのになぜ雲かきを!?
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リアラ
ひとまず、雲かきは一旦とりやめです。魔法使いさんをエークノームにご案内します!
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君はリアラとマーガレットの後に続いて、エークノームに向かった。