撫でる・撫でられると人はどのような心の動きをするのか、専門家の立場から、テレビでもお馴染みの心理学者である、植木 理恵先生にお話を伺いました。
「撫でる」ことは生きる上で必要不可欠な要素だった!
――撫でられたときに人はどのような心の動きをするのでしょう? どういった効果があるのでしょうか?
人間は承認欲求のかたまりです。その欲求は生まれた時から始まっています。19~20世紀の発達心理学者ルネ・スピッツの研究で、興味深いものがあります。幼少期から撫でるというコミュニケーションを一切行わなかった結果、子どもが早く亡くなったという事例が報告されています。栄養もきちんと与え、生きるために必要なことをしてきたにも関わらず、このような結果になったのは、撫でる(触れる)コミュニケーションが、生きる上で必須だということです。
――具体的に、どういった身体的な変化があるのでしょうか?
人は撫でられると「オキシトシン」という俗にいう「幸福ホルモン」が活発に分泌されます。このホルモンは、やる気をUPさせたり、食欲や消化機能も促進したり、体調や代謝をよくする働きもあるんです。そして撫でられることは子どもだけではなく、われわれ大人にとっても必要で、承認欲求が満たされないと情緒に大きく影響します。場合によっては味覚を感じないなど生きている意味すら感じられなくなる場合があります。
人間の本来の欲求を満たし、原点回帰できるゲーム!
――『バトルガール ハイスクール』では、プレイヤーは撫でる側になりますが、こちらはどのような心の変化があるのでしょうか。
オックスフォード大学の研究によると、ボランティア活動をしたときに、ボランティアされた人も、した人も、同程度の幸せを感じるという結果がでました。人間は本来、社会性のある動物なので、自分が何かをしてあげて相手が喜ぶことは、自分にとっても喜びだ、と感じます。
――相手=自分の喜びということですが、普段なかなかこの喜びを感じられない場合もありますよね?
自分が何かをすることで相手が喜ぶ、それによって自分も幸せを感じるというのは当たり前の構造なのに、残念ながら現代では何かをする恥ずかしさがあったり、批判の的になったりして、自分の欲求に素直になれずに行動を起こしにくくなっています。そういった意味で、このゲームは人間の本来の欲求を満たす、原点回帰できるものだと思います。誰かのためになるということは、自分自身の存在意義を感じられることであり、それはリアルでもバーチャルでも関係ありません。
『バトルガール ハイスクール』は日本人に合ったゲーム!
――撫でるという行為は、ほかのスキンシップとどのような違いがあるのでしょうか?
撫でるという行為は、ハグや握手とは違って、霊長類も行っている非常に原始的なコミュニケーションです。時代に関係なく行われてきた本能的な行動で、ハグや握手のように、その行動を起こした後のリアクションを考えなくていい、一方的なコミュニケーションではありません。
――一方的なコミュニケーションとは、具体的にどういうことでしょうか?
撫でるということは、その行動をしたあとにその相手がどういう反応をするのか? という点が異なります。撫でると喜んでくれる、つまり私はいてもいいんだという自己確認、自己愛を満たせるんです。しかも、撫でるという行為を実生活で行うのはアジア圏が中心なんです。なので『バトルガール ハイスクール』は非常に日本に合った、日本人らしいゲームと言えます。
自分に役割を与えると、実は生きやすくなる!
――『バトルガール ハイスクール』は、プレイヤーが新任教師という設定です。これについてはいかがですか?
心理学的に、なにか関係性をつくることは面白いです。大昔に私がやったことのあるゾンビを倒すゲームは「私」自身がゾンビを倒す、という構図でした。ですが、このゲームは自分が教師という役割を与えられる点で興味深いですね。“ペルソナ”という言葉があるように、いま私は“心理学者”という仮面をかぶってお話をしているわけです。
――ペルソナはたくさんあった方がいいのでしょうか?
ペルソナが1枚や2枚しかない、少ない人は抑うつ傾向が高いことが分かっています。たとえば、会社員の顔とお父さんの顔、週末はギタリストなど、ペルソナを使い分けることができる人は、言い方は悪いかもしれませんが「逃げられる場所がある」ということになります。これは大事な防衛本能なんです。なので私はよく患者さんに「ペルソナを増やしましょう」とアドバイスしています。
――ゲームの設定であっても、ペルソナになり得ますか?
自分が瞬時に新任先生になれる『バトルガール ハイスクール』の設定は、そういう意味でとてもいいと思います。リアルをイキイキと生きるためには、それがバーチャルであっても、ペルソナを持つことは必要なことなんです。
効果的な撫で方はこれだ!
――上手な撫で方などはありますか?
撫でるタイミングが重要ですね。心理学の原則は、即時フィードバックと連続性が効果的だと言われています。いいことをしたらすぐに、そして連続して誉めるのがいいです。あとになって誉めようというのは、実は効果がありません。
そして、このゲームでは自分の好きなタイミングで、気ままに撫でることができます。これは実生活ではなかなかできないことですよね。自分のタイミングで動けることは心の栄養であり、自己充足感が満たされることになります。私は世界に影響を与えられる、という人の本能を満たす。これはゲームだからこそできることなんです。
【植木理恵先生プロフィール】
心理学者、臨床心理士。日本教育心理学会にて「優秀論文賞」「城戸奨励賞」を最年少受賞。
「本当によくわかる心理学」(日本実業出版社)など、一般向けの著書多数。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」に心理評論家として出演中。